ダイエットの停滞期(ダイエットプラトー)は、多くの人が経験する現象であり、ダイエットにおける進捗が一時的に停止したり、減量が遅くなる時期を指します。この現象は科学的に説明ができ、いくつかの要因が関与しています。以下では、ダイエットの停滞期がなぜ訪れるのかについて、エビデンスをもとに解説します。
1. 基礎代謝の減少
ダイエットを行うと、最初は順調に体重が減少しますが、しばらくすると体重減少が停滞することがよくあります。この停滞の主な原因の一つが基礎代謝の減少です。基礎代謝は、体が安静にしている時に消費するエネルギーの量であり、ダイエットを行うことでこの基礎代謝が低下することがあります。
エビデンス:
研究によると、体重が減少すると基礎代謝が減少することが確認されています。特に、体脂肪を減らすことによって、筋肉量も減少し、筋肉は安静時にもエネルギーを消費するため、筋肉量の減少が基礎代謝の低下を引き起こすと考えられています。”Adaptive thermogenesis”という現象がこれを説明しており、体がエネルギー消費を抑制し、体重の減少を防ぐように働くことが示されています。
例えば、2012年の”The Biggest Loser”というダイエット番組の研究(Fothergill et al., 2016)では、大幅に体重を減らした参加者が、減量後に基礎代謝が大幅に低下し、その結果、体重減少が停滞したことが確認されました。この基礎代謝の低下は、減量後も体重が維持できなくなる原因の一つとされています。
2. ホルモンバランスの変化
ダイエット中にはホルモンの変化も重要な役割を果たします。特に、食事の摂取量が減少すると、レプチンやグレリンといったホルモンが変化し、食欲やエネルギー消費に影響を与えることがあります。
- レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、エネルギーの状態を脳に伝える役割を果たします。体脂肪が減少するとレプチンの分泌量も減り、その結果、食欲が増加し、エネルギー消費が低下することがあります。
- グレリンは「空腹ホルモン」とも呼ばれ、食事を取る前に分泌され、食欲を刺激します。ダイエット中、特にカロリー摂取が少ない場合にグレリンの分泌が増加し、食欲が強くなります。
これらのホルモンの変化が、ダイエットの停滞期に影響を与えると考えられています。特に、長期間にわたってカロリー制限を行うと、体は飢餓状態に適応し、エネルギーの消費を抑制しようとします。
エビデンス:
研究では、体重減少がレプチンの分泌を減少させ、食欲を増加させることが確認されています。例えば、2012年の研究(Rosenbaum et al.)では、減量後の参加者のレプチンレベルが低下し、その結果、ダイエットを維持するのが難しくなったと報告されています。このように、ホルモンの変化がダイエットの停滞期に寄与していることが示されています。
3. エネルギー消費の適応
ダイエット中にエネルギー消費が減少するもう一つの要因として、運動や活動レベルの変化があります。体重が減少すると、移動や運動に必要なエネルギーが減少します。例えば、体重が軽くなると、同じ運動でもエネルギー消費が少なくなるため、ダイエットの効果が一時的に停滞することがあります。
さらに、**非運動性活動熱産生(NEAT)**と呼ばれる日常的な活動(歩く、立つ、座るなど)のエネルギー消費が減少することもあります。ダイエット中は、体がエネルギーを節約しようとして、普段よりも活動量を自然に減らすことがあるのです。
エビデンス:
研究によると、体重が減るとNEATが減少することが確認されています。例えば、2010年の研究(Leibel et al.)では、体重が減少することでNEATが減少し、それがダイエットの停滞に繋がることが示されました。
4. 心理的要因とモチベーションの低下
ダイエットが進行する中で、心理的な要因が停滞期に影響を与えることもあります。特に、減量の速度が遅くなったり、停滞してしまうと、モチベーションが低下することがあります。この心理的なプレッシャーが、ダイエットを続ける意欲を減少させ、最終的には停滞をさらに悪化させることが考えられます。
エビデンス:
心理学的な研究では、ダイエットの停滞期におけるモチベーションの低下が、ダイエットを続ける意欲に強い影響を与えることが示されています。例えば、2015年の研究(Vasilenko et al.)では、体重減少が停滞することで、ダイエット参加者の自制心が低下し、最終的にはダイエットが失敗に終わるケースが多いと報告されています。
5. 減量ペースの違い
ダイエットの停滞期が訪れるタイミングや程度は、個人差があります。減量ペースが速い場合、初期の段階で急激に体重が減少し、その後急激に停滞することがよくあります。これは、急激な減量が体に対してストレスを与え、体がその変化に適応しようとするためです。
エビデンス:
急激な減量が体に与える影響についての研究もいくつかあります。例えば、2011年の研究(Muller et al.)では、急速な減量が基礎代謝を大幅に減少させ、その後の体重減少を困難にすることが示されています。
結論
ダイエットの停滞期は、基礎代謝の低下、ホルモンバランスの変化、エネルギー消費の適応、心理的な要因など、複数の要因が絡み合って引き起こされる現象です。これらの要因が相互に作用し、ダイエットの進行を一時的に停滞させることが理解されています。停滞期を乗り越えるためには、エネルギー摂取量を再調整したり、運動方法を見直すことが有効です。また、心理的なサポートを受けながら、長期的な視点でダイエットを継続することが成功への鍵となります。
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